2019年度 勇美賞受賞者

タイトル 自宅退院後の生活環境の変化が地域高齢者の生活範囲に及ぼす影響
主たる研究者 篠原 直孝
所属先・団体名 独立行政法人地域医療機能推進機構東京新宿メディカルセンター 理学療法士
選考コメント 病院内のリハビリテーションは、自宅退院後の在宅生活での日常生活動作に反映されますが、生活範囲や日常生活の内容には反映されない可能性について検討した研究です。客観的に状況を分析して、今後の課題を明らかにした有益な研究です。
調査研究の概要 【目的】病院でリハビリを受療した高齢者の退院時と退院後のADLを比較するとともに、生活範囲、IADLそれぞれの指標の関連を明らかにすること。
【方法】調査対象は当院から自宅退院した47名(年齢:77.6±81、要介護度最頻値:3)である。項目はADLの評価のFIM、生活範囲の評価のLSA、IADLの評価のFAIで退院前と退院3か月後(以下:退院後)に測定した。分析方法はウィルコクソンの順位和検定とカイ二乗検定で、有意水準はp<0.05とした。
【結果】ウィルコクソンの順位和検定では退院前と退院後FIMの合計点の有意な差が示され、各項目では階段の得点は有意に減少したが退院後FIMの清拭と浴槽への移乗は有意に向上した。カイ二乗検定ではLSA5の町外とFAIの合計点、食事の準備、食事の片付け、洗濯、掃除、力仕事、買い物、公共交通機関の利用、庭仕事に有意な差が示された。
【考察】FIM合計点の有意差は在宅生活でのFIMが居宅環境に影響すると考えられる。理由は①後期高齢の要介護度が高く居宅の階段への適応に難があり得点は減少し②逆に退院後FIMの清拭と浴槽への移乗の得点は病院では安全性を考慮し監視していたが、在宅生活では自立したと考えられる。またLSA5の町外への生活範囲に関連を示したのは買い物、公共交通機関の利用、洗濯や掃除等の家事、庭仕事等の居住環境に関わる指標が含まれる結果であった。本研究では退院時から在宅時のFIMの変化と生活範囲は利用者の生活環境から影響を受ける可能性が示唆された。
タイトル 在宅医療における「死にたい気持ち」がある利用者への一般訪問看護師の看護実践の解明
主たる研究者 千々岩 友子
所属先・団体名 福岡国際医療福祉大学看護学部看護学科 教授
選考コメント  在宅医療における「死にたい気持ち」がある利用者への一般訪問看護師の看護実践の解明、を勇美賞の候補研究として、推薦します。
本研究は、研究の目的が明確に記載され、研究方法は、再現性を考慮して詳細に報告されています。
 分析は、質的に、より掘り下げる余地があるものの、結果の解釈と研究の結論はデータと研究デザインによって裏付られていると理解されました。
 考察では、研究および議論の長所と限界、さらなる展望をより詳細に記載する可能性は残るものの、在宅医療の臨床で極めて重要な「死にたい気持ち」がある利用者について、一般訪問看護師を対象に調査された本研究の結果は新規性を有し、高い価値があると判断しました。
調査研究の概要 〈目的〉身体疾患のある在宅療養者に対する一般訪問看護師の自殺関連事案の実態を解明し身体疾患を併せもつ在宅療養者の自殺防止対策の示唆を得る。
〈方法〉精神に特化していない訪問看護ステーションに勤務する一般訪問看護師を対象に無記名自記式調査票を配布し回収した。調査期間は2019年7月~9月。調査内容は一般訪問看護師の背景因子及び訪問看護実践での自殺関連事案とした。データは調査項目ごとに記述統計を行った。
〈倫理的配慮〉研究者が所属する大学の研究倫理審査委員会の承認を得て行った(2019-1)。
〈結果〉調査票を1518部配布し欠損値を除いた280部を有効回答にした。対象者は、40歳代が最も多く、訪問看護の経験年数は平均9.1(SD6.5)年、14.3%が自殺予防研修を受講していた。訪問看護実践の自殺関連事案では、利用者から「死にたい気持ちを話されたことがある」が83.9%、利用者の「自殺未遂や自傷行為に関わったことがある」51.1%であった。
〈考察〉一般訪問看護師の8割以上が身体疾患のある在宅療養者の自殺念慮の訴えを聞き、半数以上で自殺未遂者に関わっていることから、高い割合で一般訪問看護師は自殺関連事案に遭遇していることが明らかになった。自殺予防の研修参加率は約14%と低かったが自殺念慮のある利用者との関わりが多いことから自殺予防教育を受講することが望まれる。自殺予防対策は、病院だけに留まらず、在宅医療においても重要課題である。
タイトル 中山間地域における「8050世帯」の生活問題と高齢の親の在宅ケアの実態調査
主たる研究者 宮本 恭子
所属先・団体名 島根大学 法文学部法経学科 教授
選考コメント 8050の実態にせまる貴重な研究です。今後のご発展に期待してます。
調査研究の概要 80代の高齢の親と50代の未婚の子の世帯が見守り・支援制度のはざまに落ち込み、相談先すらわからぬままに困窮するという「8050問題」が、新たな社会問題として浮かび上がっている。このような「8050世帯」の生活問題は、「50歳前後の単身無職・単身低所得の子ども」にとっては、親亡き後の生活の困窮や社会的孤立が深刻化するリスクが予想され、「80歳前後の親」にとっては、必要な医療、介護が受けられなくなる可能性が考えられる。本研究では、「8050世帯」の高齢の親にとって、必要な医療や介護が受けられているかどうかを検討するため、中山間地域を対象に、「8050世帯」の生活問題と高齢の親の在宅ケアの実態について分析した。
「8050世帯」の生活課題は見えにくく捉えづらいが、親の介護や医療などで子どもを支えることができなくなったときに、「8050問題」という社会問題として浮かび上がる。その場合、高齢の親は自分に必要な医療や介護を十分に受けることができない可能性も高まる。「8050世帯」を予防、支援する仕組みとして、家族以外の社会資源とつながることができる重層的なつながりの仕組みを構築することで、高齢の親の在宅ケアの推進に対しても地域共生社会の実現に向けたアプローチが可能になると考えらえる。
タイトル 医療的ケア児の母親の育児ストレスに関連する要因
主たる研究者 山口 みなみ
所属先・団体名 IQVIAソリューションズ ジャパン合同会社 リアルワールドデータコンサルティング
選考コメント 医療的ケア児の母親の育児ストレスという研究テーマが重要です。
多変量解析には課題があるが他の研究成果者と比較して研究デザイン、研究の質が断然高いです。
調査研究の概要 目的:医療的ケア児の母親の育児ストレスに関連する要因を明らかにする。
方法:2〜6 歳の未就学児である医療的ケア児の母親を対象に、母親の育児ストレス、母親・医療的ケア児の属性、ソーシャルサポート、母親の特性について、Web上で無記名の質問紙調査を行った。育児ストレスの下位因子と各変量の関連をt検定及び一元配置分散分析で検討し、有意であった変数を用いて育児ストレスの下位因子を従属変数とした階層的重回帰分析を行った。
結果:最後まで回答された 123 名を分析対象とした。分析対象とした医療的ケア児の母親の平均年齢は 36.76 歳(標準偏差 5.01、以後 36.76±5.01 と記載)であった。医療的ケア児については、男児が 66 人(53.7%)、平均年齢は 3.99±1.33 歳だった。2 歳から 5 歳までは各年代に大きな人数の偏りはなかった。疾患(複数回答)について、脳神経疾患をもつ児が 65 人(52.8%)と最も多く、次いで呼吸器疾患 51 人(41.5%)、遺伝子・染色体異常 38 人(30.9%)だった。主疾患についても同様に脳神経疾患の児が 48 人(39.0%)、次いで呼吸器疾患 25 人(20.3%)、遺伝子・染色体異常 23 人(18.7%)の順であった。