在宅医療とは

我が国では、団塊の世代の方が全て後期高齢者となる2025年まであと数年に迫り、多くの方が、病気になっても「住み慣れた地域や自宅で療養したい」と考えるのではないでしょうか。
病気や加齢による身体の衰えなどによって、医療機関への通院が困難となった場合に、自宅や高齢者向けの施設などの「生活の場所※」に医師や看護師などが訪問して、診察や治療、健康管理などを行うことを『在宅医療』と言います。
具体的には、医師をはじめ、歯科医師、訪問看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、介護支援専門員(ケアマネジャー)、訪問介護員(ホームヘルパー)など、さまざまな医療や介護の専門職が連携して定期的に患者さんのご自宅などを訪問し、チームとして患者さんの治療や介護を24時間対応で行っていく活動です。
実際には、医療・介護関係者などが、患者さんやご家族と相談の上、計画にもとづいて定期的に訪問し、治療や経過観察を24時間体制で対応しています。
在宅医療には、医師が訪問して診察や経過観察を行う訪問診療や往診のほか、看護師が訪問してケアを行う訪問看護、理学療法士や作業療法士が行う訪問リハビリテーションなどが含まれます。

在宅医療を受けることができる「生活の場」について

自宅だけでなく、特別養護老人ホームやグループホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅などでも在宅医療を受けることができる生活の場になります

一方、学問的には日本在宅ケアアライアンスが2019年10月に発表した『基本文書2:在宅医療の概念および当面の諸課題について』の中で、「在宅医療とは、地域の住まい(法律上、在宅医療は病院以外の居宅等での医療)に住む通院が困難な対象者に対し、⼈⽣の最終段階も視野に⼊れて、医師、⻭科医師、薬剤師、看護職、リハビリ関係職(PT、OT、ST)、管理栄養⼠、栄養⼠、⻭科衛⽣⼠、介護⽀援専⾨員、介護職などが⾏う医療介護を通ずる包括的な⽀援を指す概念」であるとしています。

在宅医療の対象となる方

対象となる方

入院や通院が困難な方
呼吸や栄養、排泄等、日常生活に医療的なサポートが必要な方
※他の医療機関にかかられている方でも、在宅医療を受けることができます。

主な疾患や症状

悪性腫瘍のターミナル期
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害後遺症
アルツハイマー型認知症やその他の認知症
神経難病
運動器疾患(骨粗鬆症、圧迫骨折、変形性関節症、 大腿頸部骨折)や関節リウマチなど
慢性心不全・慢性呼吸不全・慢性腎不全など
合併症を伴った糖尿病
褥瘡(床ずれ)
老衰 など

主なものを掲載しています。
上記以外の疾患や症状等で在宅医療を希望される方は、主治医などにご相談ください。

実際には、次のような方が在宅医療を受けています

足腰が不自由となり、一人で外出や通院が難しくなった 病院から退院したが、自宅での療養が必要となった 認知症の進行により、自宅でより手厚い看護、介護が必要 がんにより痛みや体力低下によって、通院が難しい 自宅での看取りを希望している 神経の難病などで、人工呼吸や経管栄養などの医療処置が必要 心臓や肺の病気が原因で、少しの動作でも息切れなどあり、通院が難しくなった 障がいがあり、医療的なケアが必要なお子さん(医療的ケア児) 在宅で寝たきりとなり、入れ歯が合わなくなった(訪問歯科診療)     など

在宅医療で可能な検査、処置など

医療技術の進歩や複数の専門職がチームでかかわること(チーム医療の実践)によって、在宅でもさまざまな治療や検査、処置、指導などを行うことが可能となっています。

治療、処置
酸素療法、点滴、中心静脈栄養、経管栄養、気管カニューレの管理、持続的導尿、人工呼吸、 人工透析、褥瘡(床ずれ)の処置、医療用麻薬などを用いた疼痛緩和 など
検査
血液検査、尿検査、心電図検査、超音波(エコー)検査  など
指導
薬剤指導、栄養指導、リハビリテーション指導   など
その他
むし歯などの治療や入れ歯の調整、口腔ケア、訪問リハビリテーション   など

在宅医療にかかる費用

在宅医療にかかる費用は、主に以下のようになります。

①診察にかかる費用(定期的にかかる費用+臨時にかかる費用)
②介護保険サービス(障がい福祉サービス)にかかる費用
③自費診療にかかる費用
④その他の費用

❶診察にかかる費用

定期的にかかる費用

  • 訪問診察料
  • 医学総合管理料  など

臨時にかかる費用

  • 往診などの臨時の対応にかかる費用
  • 検査、処理、指導などにかかる費用
  • 薬剤料  など

❷介護保険サービス

  • 居宅療養管理指導
  • 訪問看護
  • 訪問リハビリ
  • 訪問介護
  • 訪問入浴介護
  • デイケア・デイサービス

など

❸自費診療にかかる費用

  • 自費診療にかかる費用
  • 文書料、診断書料
  • 衛生材料等にかかる費用

など

❹その他

  • 消耗品にかかる費用
  • 光熱水費
  • 交通費

など

実際の費用については、保険の種類、訪問先、訪問回数、患者さんの疾患や状態等により金額が変わりますので、お住いの市区町村も窓口、医療 機関やサービス事業所に直接お問い合わせください。

在宅療養を支えるスタッフ

在宅医療の現場では、多くの専門職が連携をしながら、環境の整備などを行いつつ、在宅で療養をする方のその人らしい生活が継続できるよう支援しています。

職種 主な役割
医師 在宅で療養をする患者さん宅を定期的(訪問診療)もしくは急変時行う他、看護師をはじめとする医療関係者に指示を出したりと、在宅医療を実施するに当たり、中心的な役割を担います。
訪問看護師 在宅で療養をする患者さんの様々な処置やケアの実施、全身状態の観察などを行います。在宅療養をしている患者さん、家族を支える要としての役割も担っています。
歯科医師 在宅で療養をする患者さんの口腔内を清潔に保つことは、嚥下障害や誤嚥性肺炎の予防にもつながり。とても重要です。その中で、歯科医師は口腔ケアの中心的な役割を担っています。また、在宅医療用の場で入れ歯の調整なども行います。
薬剤師 在宅で療養をする患者さんが薬を決められたように適切に飲まれているかどうか、薬の飲み合わせや副作用の問題はないかなどをチェックするなど、より効果的な薬の使い方を確認しています。また、医師の指示の下、患者さん宅を訪問し、在宅で療養をする患者さんの薬剤管理指導などの役割も担っています。
管理栄養士 在宅で療養をする患者さんは、疾患や疾患に伴う嚥下障害など様々な原因によって栄養障害を起こしていることも多く、栄養障害が患者さんの治療を妨げていることもあります。管理栄養士は患者さん一人ひとりに適した栄養指導や食事に関する相談に対応します。
理学療法士 在宅で療養をする患者さん宅を訪問(訪問リハビリテーション)し、基本的な動作能力(座る、立つ、歩くなど)の回復や維持や障がいが悪化することを防ぐ目的に、運動療法や物理療法(温熱、電気等の物理的手段を治療目的に利用するもの)などを用いて、在宅で患者さんが自立した日常の生活が送れるよう支援する役割を担っています。
作業療法士 在宅で療養をする患者さん宅を訪問(訪問リハビリテーション)し、単なる基本的な動作能力(座る、立つ、歩くなど)の回復抜向けた訓練だけでなく、患者さん一人ひとりに応じた日常生活の活動を高め、家庭や社会への参加を促す役割を担っています。
言語聴覚士 在宅で療養をする患者さん宅を訪問(訪問リハビリテーション)し、言語障害(失語症や構音障害)に対するリハビリテーションを行い、コミュニケーションの取り方についての提案・指導も行います。
介護支援専門員
(ケアマネジャー)
在宅で療養する方が、介護保険サービスを利用する場合、介護支援専門員(ケアマネジャー)がケアプランを作成し、利用するそれぞれ介護サービス事業者との連絡、調整などを行ないます。
訪問介護員
(介護福祉士・ホームヘルパー)
在宅で療養する方のご自宅などを訪問し、入浴や排せつなどの身体介護だけでなく、食事を作ったり、洗濯を行うなどの家事援助サービスを行い、その人らしい生活全般を支援する役割を担っています。
医療ソーシャルワーカー 病院や診療所(クリニック)で、在宅で療養をする方やその家族が抱える経済的・心理的・社会的な課題の相談を受け、社会福祉の視点からそれらの課題が解決できるよう、またその人らしい生活が送れるよう支援する役割を担っています。

在宅医療を行う医師など見つけるには

広く知られようになり、実施されるようになった在宅医療ですが、未だ「在宅医療を行ってくれる先生(医師)を探すのが難しい。」や「在宅医療を行ってくれる先生や看護師さんはどこにいるの?」といったお問い合わせを受けることがあります。
ここでは、在宅医療を行ってくれる医師や看護師などの探し方を紹介します。

〈患者さんが通院している場合〉

診療所や病院に通院しているが、病気の進行や家族の環境の変化などによって通院が困難になり、在宅医療(医師により訪問診療だけでなく、訪問看護や訪問リハビリテーションなどを含む)を希望する場合は、まずは通院中の診療所や病院の主治医(かかりつけ医)に相談してみましょう。
現在、多くの診療所や病院で在宅医療が実施されています。
主治医の先生がそのまま在宅医療を行ってくれる場合も見られます。主治医の先生が在宅医療を実施していなくても、同じ診療所や病院のほかの医師が在宅医療を行っている場合もあります。

また、通院中の診療所や病院で在宅医療を実施していない場合は、同じ地域で在宅医療を実施している診療所や病院を紹介してくれることもあります。
介護保険サービスを利用している場合は、担当の介護支援専門員(ケアマネジャー)に相談するのも一つの方法です。
現在通院中の診療所や病院でより専門的な疾患の治療などを行っている場合は、通院は継続したまま在宅医療を受けることも可能です。

〈患者さんが入院している場合〉

がんや脳卒中などの病気で入院し、自宅などへの退院後、継続的に在宅での療養を希望する方も多くいます。そういった場合、退院後に訪問診療を行ってくれる医師などを探すのでは遅く、退院する前、できる限り早くから相談や準備を開始しましょう。
まずは入院中の病院の主治医に相談してみましょう。
もしくは、昨今、ほとんどの病院には、患者や家族からの医療や福祉に関する様々な相談を受けたり、退院後の地域の医療機関等への円滑な連携を行うための「地域連携室(課)」や「医療福祉相談室」という部署があります。そこには「医療ソーシャルワーカー」や「退院支援看護師」などの専門職がおり、在宅医療を行う医師を紹介するなど、退院に向けての様々な支援を行ってくれます。

なお、医療ソーシャルワーカーがいる医療機関はこちらを参照ください。
また、入院以前に介護保険サービス介護保険サービスを利用している場合は、担当の介護支援専門員(ケアマネジャー)に相談するのも一つの方法です。

〈その他〉

それぞれの地域で在宅医療を行っている医療機関などを探すには、以下の方法もあります。

参考:
一般社団法人 日本在宅ケアライアンス ホームページ
一般社団法人 全国在宅医療支援医協会 ホームページ
在宅医療に関わる皆様にお役立ていただくための情報サイト「homedi」 など